社会的孤立と精神病15

Concerning the potential roles for PGC-1α in the maintenance of mitochondrial function, there is substantial evidence for mitochondrial dysfunction in schizophrenia.
PGC-1αの潜在的役割がミトコンドリアの機能維持であることに関して、統合失調症ではミトコンドリアが機能不全を起こしているという十分なエビデンスが存在する。

(Prabakaran et al., 2004 Figure 2の注釈を追加しました)



Using 31phosphorus magnetic resonance spectroscopy (31P-MRS) to measure ATP and phospholipids (Fujimoto et al., 1992; Volz et al., 1997), and positron emission tomography (PET) scans with [18F]-fluoro-deoxy-glucose (FDG; Buchsbaum and Hazlett, 1998), altered energy metabolism has been observed in cerebral cortex of schizophrenic patients.
ATPとリン脂質を計測する31P-磁気共鳴分光法 (31P-MRS) と、[18F]-フルオロデオキシグルコース (FDG) による陽電子放射断層撮影法 (PET) スキャンを用いた研究で、統合失調症患者の大脳皮質でのエネルギー代謝の変化が観察されている。

※31phosphorus magnetic resonance spectroscopy (31P-MRS): 31P-磁気共鳴分光法
31Pはリン (phosphorus) の安定な同位体。MRIでは主に水や脂肪を画像化するが、MRSではリン、炭素、フッ素などの濃度がきわめて低い原子核を計測する。
研究では、左側頭部、右大脳基底核でのγ-ATP、α-ATP、β-ATPの減少などが見られた (Fujimoto et al., 1992)

※positron emission tomography (PET): 陽電子放射断層撮影法。陽電子を放出する物質を生体に取り込ませ、陽電子と電子が衝突して放出されるγ線を検出してコンピューター処理することで三次元の画像を得る

※[18F]-fluoro-deoxy-glucose (FDG): [18F]-フルオロデオキシグルコース。細胞内で代謝されにくい2-デオキシグルコースをフッ素同位体18Fで標識したもの



A significant decrease in mitochondria number and density in the prefrontal cortex and caudate nucleus of postmortem brains of subjects with schizophrenia was observed compared with control subjects (Uranova et al., 2001).
統合失調症患者の死後の脳では、コントロール群と比較して、前頭前皮質と尾状核においてミトコンドリアの数と濃度の明らかな減少が観察された。

※caudate nucleus: 尾状核。大脳基底核の一つ。尾状核/被殻 (線条体) は皮質から興奮性の入力を受け、淡蒼球/黒質網様部への出力を介して視床へ抑制性の制御を行う

A lower number of mitochondria were found in medication-free patients compared with those taking antipsychotics or control medications, suggesting drug treatment normalizes the number of mitochondria (Inuwa et al., 2005).
薬物治療をしていない患者では、抗精神病薬を投与した患者もしくはコントロール治療群と比較してミトコンドリアの数が少ないことが判明している。
このことは薬物治療がミトコンドリアの数を正常化することを示唆する (Inuwa et al., 2005)。




Combining a parallel transcriptomics, proteomics and metabolomics approach, Prabakaran et al. (2004) explored the molecular signatures in brain tissue of schizophrenia.
Prabakaranらは、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスによるアプローチを並行して組み合わせ、統合失調症の脳組織 (ブロードマンの脳地図における9野。前頭前皮質の一部) における分子的な徴候を調査した。

※transcriptomics, proteomics and metabolomics: それぞれ、mRNA、タンパク質、中間代謝産物の総体的な解析

※signature: 徴候。生体の異常を表す客観的な観察/診断の結果

Almost half of the altered proteins identified were associated with mitochondrial function and oxidative stress responses.
それにより同定されたタンパク質の変化のほぼ半分が、ミトコンドリア機能と酸化ストレス応答に関連があった。

※altered proteins identified: ミトコンドリアとROSに関連する経路で、発現が促進していたのは、Glutathione Biosynthesis (グルタチオン生合成)、Glutathione Metabolism (グルタチオン代謝)、Oxygen and Reactive Oxigen Species Metabolism (酸素/ROS代謝)
発現が低下していた経路は、Oxydative Phosphorylation (酸化的リン酸化)、Energy Pathways (エネルギー経路)、Coenzyme Metabolism (補酵素代謝)、Carbohydrate Biosynthesis (炭水化物生合成)、Mitochondrial Translocation (ミトコンドリア輸送)、Lipid Biosynthesis (脂質生合成)、Protein Mitochondrial Targetting (ミトコンドリア向けタンパク質)、Glycolysis (解糖系) だった。
具体的には、複合体IIIのユビキノール-シトクロムcレダクターゼコアタンパク質1 (UQCRC1) が白質と灰白質で減少し、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体 (PDH) E1のアルファサブユニットが灰白質で減少するなどしていた
NMRによる代謝産物の分析では、アデノシン0.51倍、ウリジン0.5倍、脂質1.23倍、ミオイノシトール0.87倍、ホスホコリン0.88倍、タウリン1.19倍、グルタミン酸/グルタミン1.35倍、酢酸0.71倍、GABA0.6倍、乳酸が1.51倍という変化が白質で見られた (Prabakaran et al., 2004)


Figure 2.
結果と仮説の概要

(a) 統合失調症の前頭前皮質から得られた機能的遺伝学による発見の概要を図で示す。

※functional genomics: 機能的遺伝学。生物中で発現している遺伝子についての学問

著しく発現が促進されている転写産物、タンパク質、代謝産物、経路を図では赤で表し、発現が低下しているものは青で示す。
機能的遺伝学では、解糖系タンパク質/転写産物の減少と同時に、グリコーゲン分解の酵素をコードする転写産物の増加・グリコーゲン合成に関連する転写産物の減少という結果が示された。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ (PDH) 複合体のタンパク質/転写産物の減少は、乳酸の濃度の上昇を伴っていた。

※PDH complex: ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体。ピルビン酸、NAD+、CoASHから、アセチルCoA+CO2+NADH+H+を生じる

β酸化の酵素をコードする転写産物ならびにカルニチン輸送のサブユニット (carnitine acetyltransferase) をコードする転写産物は著しく発現が増加していた一方、脂肪酸を合成する酵素は著しく減少していた。
好気的エネルギー経路も著しく減少し、TCA回路酵素と酸化的リン酸化酵素のタンパク質/転写発現の低下を伴った。
抗酸化酵素とROS防御酵素は、タンパク質/転写レベルで著しく増加していた。

(b) 仮説を図で示す。

遺伝的要因 (genetic factors) があると、両親はエピジェネティック要因の副作用 (the adverse effects of epigenetic factors) に影響されやすくなる (predispose to)。

様々なエピジェネティックな引き金が前頭前皮質内でのエネルギー需要を増加させ、その需要はグルコースと酸素の量を超える。その結果、グリコーゲン貯蔵は枯渇し、脂質代謝は増加、そして低酸素になる。
低酸素はTCA回路と酸化的リン酸化を含む好気的エネルギー経路の発現/活性を減少させる一方、ROS防御酵素の発現を引き起こす。
低酸素状態も嫌気的呼吸の増加から乳酸の濃度を上昇させ得る。乳酸の上昇は神経伝達を阻害し、タンパク質の活性と細胞骨格の構成を変化させ、ROS産生を増幅する。ROSはタンパク質とDNA、そして白質にダメージを引き起こす。
解糖系と酸化的リン酸化経路の顕著な減少は、インスリン/インスリン様成長因子のような成長因子のシグナル伝達の変化を伴う。
このように、低酸素と成長因子シグナル伝達のどちらか/両方の結果として起きる全体的な代謝の変化は、統合失調症において神経伝達システムが阻害されている理由を説明する可能性がある。 (Prabakaran et al., 2004)







Critical role of PGC-1α in mitochondrial biogenesis and metabolism highlights it as an interesting candidate for further study in the context of schizophrenia.
ミトコンドリアの生合成と代謝においてPGC-1αが果たす重要な役割は、統合失調症の背景を考える上でPGC-1αがさらに研究するべき興味深い候補であることを強調している。
[PR]

by travelair4000ext | 2013-11-11 23:22 | 翻訳  

<< 社会的孤立と精神病16 社会的孤立と精神病14 >>