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社会的孤立と精神病17

Epigenetic regulation of PGC-1α
PGC-1αのエピジェネティックな調節





Another mechanism of PGC-1α regulation that could account for environmental and genetic convergence on PVIs may be the modulation of PGC-1α transcription and/or activity by epigenetic mechanisms.
PGC-1αの調節は、環境と遺伝がPVIへ集合する原因となり得る。
その調節メカニズムの一つはNMDAR/CaMKIV/pCREBと考えられるが、エピジェネティックなメカニズムもPGC-1αの転写と活性 (そのどちらかまたは両方) を調整している可能性がある。

Increasing evidence suggests that external environmental factors, such as nutritional, chemical, physical, even psychosocial factors can modify gene expression through epigenetic processes (Jirtle and Skinner, 2007).
外部の環境要因、例えば栄養的、化学的、物質的な要因、さらに心理社会的な要因でさえ、エピジェネティックな過程を通して遺伝子発現の修飾が可能であることを示唆するエビデンスが増えつつある。

Epigenetics refers to a set of mitotically heritable and reversible changes in gene expression that occur without a change in the genomic DNA sequence.
エピジェネティクスとは遺伝子発現における一連の変化を指し、それは細胞分裂で遺伝はするが可逆的な変化であって、遺伝子のDNA配列が変化することなく起きる。

Epigenetic changes have been associated with a number of paradigms involving social behavior in animal models, such as maternal care (Weaver et al., 2004), early life adversity (Murgatroyd et al., 2009), animal models of posttraumatic stress disorder (PTSD; Chertkow-Deutsher et al., 2010) and chronic social defeat (Tsankova et al., 2006).
エピジェネティックな変化は多くのパラダイム (理論的枠組) に関連しており、その中には動物モデルの社会的な振る舞いが含まれる。
例えば、母親による世話、幼い時の人生の不幸、外傷性ストレス障害 (PTSD) の動物モデル、慢性的社会的敗北ストレスである。

※maternal care (Weaver et al., 2004): 母親ラットの世話。
仔ラットを舐める、グルーミングする (pub licking and grooming)、背が弓状に見える保育姿勢を取る (arched-back nursing) ような世話の頻度が高いと、仔どもの海馬では糖質コルチコイド受容体 (GR) の遺伝子プロモーターのDNAメチル化にエピジェネティックな変化が見られた。この変化は生後一週間を超えた頃に出現し、成体になるまで維持された。
DNAメチル化はヒストンアセチル化の変化と関連し、転写因子NGFI-A (nerve growth factor inducible protein A) のGRプロモーターへの結合の変化と関連した。
ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) の阻害剤は、ヒストンアセチル化の変化とDNAメチル化の変化を取り除き、NGFI-Aの結合/GR発現/ストレスへのHPA応答の変化も消失した。
これらはエピゲノム状態とGR発現との因果関係、そしてストレス応答への母親の影響を示唆する。
母親ラットの世話は、セロトニン (5-HT) /5-HT7受容体/cAMP/PKAを介してGRプロモーターDNAメチル化を抑制し、NGFI-Aのリクルートとヒストンのアセチル化、仔の脳内でのGR活性を促進する。

※early life adversity (Murgatroyd et al., 2009): 幼い人生の不幸。
幼いマウスにストレスを与えると、持続的にコルチコステロンが過剰に分泌され、ストレス対処 (stress coping) と記憶に変化が現れる。この変化は視床下部室傍核 (hypothalamic paraventricular nucleus) ニューロンでのアルギニンバソプレッシン (arginine vasopressin; AVP) の発現上昇と関連し、AVP発現の上昇はその調節領域のDNAメチル化の低下と関連した。
調節領域のCpG残基は、メチル化CpG結合タンパク質2 (MeCP2) のDNA結合箇所として機能する

※arginine vasopressin (AVP): アルギニンバソプレッシン。バソプレッシンのこと。アミノ酸9個から成るペプチドホルモンで、室傍核 (paraventricular nucleus; PVN) と視索上核 (supraoptic nucleus; SON) で合成される。作用は、抗利尿、昇圧、ACTH分泌、記憶増強など


※chronic social defeat (Tsankova et al., 2006): 慢性的な社会的敗北ストレス。
敗北ストレスはBDNFのスプライシングバリアントmRNAのIIIとIVを慢性的に減少させ、それらに対応するプロモーターのヒストンメチル化による抑制を増加させた。
三環系抗うつ薬のイミプラミンを持続的に (28日間) 投与すると、ヒストンのメチル化と攻撃者 (aggressor) によるうつ病様の行動は反転し、ヒストンのアセチル化は増加した。このアセチル化はヒストン脱アセチル酵素HDAC5の抑制と関連した

※chronic social defeat: 慢性的社会的敗北ストレス。うつ病の動物モデルの一つ。具体的な実験方法は、「比較的小さなマウスが、より大きくより攻撃的なマウスと繰り返し対面させられる」 というもの。その結果、「小さいほうのマウスの大多数が、社会的回避と快感喪失反応を示すようになる」。つまり、慢性的に弱者が強者から敗北感を受け続けるという、社会的なストレス (Sci. Signal., 26 March 2013)







Furthermore, epigenetic changes in interneuron-specific transcripts have been documented in schizophrenia; a significant reduction of GABAergic protein (GAD67 and reelin) are accompanied by increased methylation of the GAD67 and Reelin promoters and increased DNA methyltransferase (DNMT) one in the same interneurons in the cortex of schizophrenic patients (Guidotti et al., 2000; Grayson et al., 2005; Veldic et al., 2005; Huang et al., 2007; Ruzicka et al., 2007).
さらに、介在ニューロン特有のエピジェネティックな転写の変化が統合失調症において立証されている。
統合失調症患者の皮質の介在ニューロン内では、GABA作動性ニューロンのタンパク質 (GAD67とリーリン) はプロモーターのメチル化の増加に伴って発現が著しく減少し、同じニューロン内でDNAメチル基転移酵素1 (DNMT1) も増加する。

reelin: リーリン。胎児期では大脳皮質や海馬で発現し、脳神経の正常な構造の発達に寄与する。成体ではGABA作動性神経細胞などで発現する

※methyltransferase: メチル基転移酵素。メチル基の供与体としては、S-アデノシルメチオニン (活性メチオニン; メチオニンアデノシルトランスフェラーゼによってメチオニンとATPから合成される) であることが多い。DNMT1によるDNAメチル化がリーリン発現減少の原因の一つとされているが、明確ではない。メチオニンの大量摂取は統合失調症を悪化させることが以前から知られている

※increased methylation of the GAD67 and Reelin promoters and increased DNMT1: 統合失調症患者と精神病を伴う双極性障害患者ではブロードマン9野の皮質I層、II層、IV層で、GAD67/リーリンのプロモーターのCpGアイランドメチル化が増加し、DNMT1のmRNAも増加していた (Veldic et al., 2005)。
Ruzickaらの研究では、統合失調症患者のブロードマン9野のI層で、GABA作動性ニューロンのDNMT1のmRNAが増加し (錐体ニューロンでは変化がなかった)、GAD67/リーリンのmRNAは減少していた。V層では変化が見られなかった (Ruzicka et al., 2007)




Mill et al. (2008) published the first epigenome-wide study of psychosis using postmortem tissue obtained from frontal cortex of patients with schizophrenia or bipolar disorders.
Millらは統合失調症もしくは双極性障害患者の前頭皮質から得られた死後の脳組織を使い、精神病の初めてのエピゲノム-ワイド研究を報告した。

This study enriched the unmethylated fraction of genome DNA and used a CpG island microarray to assay DNA methylation at approximately 12,000 sites across the genome.
この研究ではHELP法により染色体DNAのメチル化されていない部分を増幅し、CpG島マイクロアレイを使用して、染色体全体の約12000箇所でDNAメチル化を分析した。

CpG island: CpG島。CG配列が密集する領域。CpGのpはリン酸を表す。遺伝子の上流に存在するCpG領域のC (シトシン塩基) 5位の炭素がメチル化 (5mC) されることにより遺伝子の発現が抑制される

※enriched: MillらはHpaII/MspI制限酵素を使うHELP (HpaII tiny fragment Enrichment by Ligation-mediated PCR) 法でメチル化を検出した (Mill et al.,2008)。
HpaIIは5'-CCGG-3'配列の中央のCGがメチル化されていない時だけ切断する/メチル化している時は切断しないので、メチル化していても関係なく切断するMspIをコントロール群として比較することで、メチル化の比率を調べることができる

Their gene-ontology analysis highlights epigenetic disruption to loci involved in mitochondrial function, stress response and brain development.
それらの遺伝子オントロジー分析では、ミトコンドリアの機能、ストレスへの応答、脳の発達に関与する遺伝子座へのエピジェネティックな障害が目立つ。

ontology: オントロジー。遺伝子オントロジー (gene ontology) では、遺伝子や遺伝子産物の特性を統一した語彙で記述し、分類して階層化していくことで関係性を定義する

by travelair4000ext | 2013-11-13 18:09 | 翻訳  

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